L-M BRIC News No. 5 日本語版 04-10-2002 ©
        米国ニューヨーク州イサカ市ウィンスロッププレイス5番地
        ループ操作組紐研究情報センター
        創立者・編集者 木下雅子(Masako Kinoshita)
        電話・Fax (607) 257-0886: E-mail mkinoshi@twcny.rr.com
        英語版第5号  参考文献  L-M技法世界分布地図

        L-M BRIC NEWS

        特集『縄連組紐の組成法としてのループ操作技法」

        縄連組織組紐(Single Course Twining)とは、何本かの並列する撚り紐(TWINE)の撚り目に糸を通して連ねた組織を持つ組紐である(注1)。 並列する撚り紐とそれを連ねる要素が経糸緯糸のような関係にあるものと、全ての要素が両者の役割を果たす斜向組織のものとがある。その存在は古くは中国や ペルーの砂漠地帯からの考古出土資料、7世紀の法隆寺献納宝物、8世紀の正倉院宝物中組紐、15世紀イギリスの記録などにみられ、現代も世界の各地で種々 の技法を使って組成されている。後者には組織の斜向の向きが紐の左右で反転する2方向又は2セクション斜向縄連組織(2d 又は2s SCOT)が多く見られる(注2)。
        経緯組織組紐のループ操作による組成法は、現行の技法が民俗誌ジャーナルなどに報告されており、外に見聞の記録が相当数ある(注3)。カード織、伝統組紐の綾竹台などでも組成される。
        斜行組織組紐のループ操作組成技法としては、M. フレイムが古代ペルーの組紐の組成法として、木下雅子が日本の古代組紐の組成法として、それぞれ同じころに独自に提案した手操作法がある(注4)。その後イギリス15世紀のループ指操作組紐技法の記録「トルマッシュ家の秘伝・紐の作り方」に、丸紐を含む多数の組み方が見いだされ、フレイム、木下の提案技法の原理の実在性が根拠づけられた(注5)。
        アンデス地方で現在も作られていることが製品に見られるが、組成法の報告はない。
        L-M 以外の現在使われている技法としてはプライスプリット(PLY-SPLIT = P-S)、丸台、純粋手組みなどがある(注6)。



        パキスタン北部に住むフンザ族の経縄連組織縁飾り
        レイ・ナピアさん(イギリス)の報告 



        フンザ族はループ操作法を使って作る経縄連の細幅紐を帽子などの縁飾りにしている(写真上)。杉綾が4列並ぶ4目のメリヤス編の様に見える平紐を組みながら綴じ付ける。
        ループ技法で組成する場合は組織ユニットの撚り紐は双糸であり、両手の4本の指(ループ8本)を使って組成する杉綾4列のものが多いがフンザ族では時には 杉綾5列のものも作るという。4列以下の場合もあり得る。現行の技法として報告されているのは、全て原理的には同じものである。ノボシビルスクの民族学研 究所で見たシベリア西北部に住むハンティ族の毛織り上着には、上下2面で組織が異なる典型的な不正規組織組紐と経縄連紐が使われていたが、後者もおそらくループ操作で作られたものであろう。
        帽子、衣服、手提げ袋その他の縁取り、縫い筋を被って綴じ付けるなどに用いる。
        縁飾りの経縄連紐には、カード織技法が使われる場合もある。カード技法の場合は組織ユニットになる撚り糸は4本撚りが多く、撚り糸の本数は使用カードの枚数によって決まる。表面の組織パタンも杉綾とは限らない。



        古墳出土の2方向斜向縄連組織組紐組紐の組成法についての研究

        元興寺文化財研究所付属保存科学センターの井上美知子・木沢直子・小村真理・植田直見等は、WOAM 国際会議 において、「鳥取県長瀬高浜遺跡出土2方向斜行繩連組織組紐及び熊本県天水町経塚古墳出土4畝平組紐について=Braids on Excavated Iron Swords」をポスター発表し、多くの関心が寄せられた(注7)。
        この研究は、銹化した考古資料、鳥取県長瀬高浜遺跡出土の剣の鞘に巻かれていた組紐、および熊本県天水町経塚古墳出土挂甲の威毛について、ループ操作技法で組成された可能性が高いことを指摘したものである(注8)。 銹化資料に残る組目と法隆寺献納宝物、正倉院宝物中の古代2方向斜行繩連組織組紐の組み目の傾斜角度、4畝平組紐の組織の特徴などの類似性から、これら上 代組紐が古代組紐と同じ技法で組成された可能性を論じている。これが確認できれば、もとの組紐の出自がどこであったかは判らないとしても、SCOT組紐の ループ操作による組成技法の存在上限が、7世紀から5世紀に遡ることになる。


        写真上 2方向状連組紐の軸の傾斜角度比較
        左から、法隆寺宝物幡頭組紐.長瀬高浜遺跡出土鞘巻紐.クテ打組成組紐.高台組成復元模造.



        タイ国少数民族ヤオ族のL-M技法
        依田章子さんの報告

        タイ国の山地少数民族カレン族とアカ族が「掌上向き・薬指(内側指)で操作」する ループ指操作技法第2法を用いていることは既に報告されていたが、更にヤオ族も同じ方法を用いていることが依田章子さんの報告でわかった(注9)。

        ループ数5で、角組、組蛇腹組2本同時と4畝綾織組織平組紐を組む。素材は赤、黒、白などの艶出し木綿糸。ループ端で2色の糸を結んで繋いだ2色ループを使って縦縞柄角組を組むこともある。不正規組織組紐(UO)は組んでいない。
        衣服の襟回り、袖口、前立、ヤオ族がこれで知られる刺繍やアプリケの衣服、ショールダーバッグ、縁無し帽、花嫁の鞍の掛布などの縁飾りに綴じ付けられ、ボタンかけのループにも使われる
        。



        「インドの金糸組紐工房の組師」が使っていた指操作法は第2法!
         
        ニュース第1号掲載の図4インドの金糸組紐工房について、この絵の描写に間違いがなければインドの組師が使っている技法は「掌上向き、内側指で操作する組み方」(第2法)であろうと1998年発刊当時に推定したが、Fingerloop Braids (「L-M 組紐関係出版物」欄参照)の著者の一人 Z. K. ウィリアムス が12才の時にインド人から習ったL-M 技法はまさにその組み方であった。これまで第2法の報告は中国、タイ、日本などアジアの東寄りの地域が大多数であったが、更にアジア中央南部のインドが加わったことになる。


        ミステリー 桧扇の扇面に描かれた絵は?



        京都市勧業館内京都伝統産業ふれあい館ギャラリーで昨秋開催された「室町・桃山時代の衣裳展」には、昭和初頭に開催された「染織祭」のために、京都の染織 技術の粋を結集して確かな時代考証のもとに復元された職人衣裳が並んだ。その1点づつの足下に置かれていた桧扇の一つに足打台が描かれていたと、角浦節子 さん(京都)と田中享子さん(札幌)からの報告。(写真上)その後の角浦さんの調査で、主催者京都伝統産業交流センターの学芸員北川さんによれば、桧扇は 出展の衣裳が作られたときにアクセサリーとして作ったもので、衣裳については完全な記録があるが扇の記録は残念ながら皆無であることがわかった。
        打箆の支柱にある切り込みは、組しゅん備考の「手組糸打臺寸法」の図にもあるが、これまでその目的がわからなかったものである。扇面の図によれば、切り込 は作業を中止する時に糸順が乱れぬように叉になった棒で糸束を挟み、その棒をかけておくための棚として使われている。このような詳細が典拠なしに描かれた とは考えられない。衣裳の時代にふさわしいアクセサリーとして作られた桧扇の絵の典拠はおそらく衣裳と同時代の資料にあるのではないだろうか。この絵の原 典を知っている人はいませんか。



        縄連組紐解説

        織物では、経糸と緯糸の交叉点でいずれを上にするかを定めることで組織が決まるように、トワイニング組織の場合は、各交叉点で、対向して交錯する撚り糸または撚り紐(注10)のいずれを相手の撚り目に貫通させるかを定めることで組織が決まる。
        1本の要素が対向要素数本を一方的に続けて貫通しているものが縄連組織(SINGLE COURSE TWINING )である。


        要素が2群に別れる縄連組紐:
        日本の伝統組紐の中の綾竹組は、紐の丈方向に通る撚り糸が横つなぎ要素で連結されてて、一見カード織の帯と同構造に見えるために、「組」であるか「織」で あるかの論議の的になることがある。伝統組紐には、1群の並列する双糸がもう1群の並列する双糸、時には4要素とか8要素の組紐でつながれている立体j縄 連組紐がある。多くはその名前に「源氏」がついているこれらの組紐では、対向要素を経要素とそれを繋ぐ緯要素とに分けるよりも、要素の内の1群(A群)は 奥行き方向に、他の1群(B 群)は幅方向に移行して互いに交錯しながら立体構造を形成すると見る。このような構造の中で、B 群の要素数が最低基本数に減退したものが綾竹台で組む経縄連組織平組紐であると見れば、綾竹組が「組」に属することは明らかである。撚り紐を横つなぎにし たカード織の帯もB 群要素が1本か2本に減退した状態と見做せないかといえば、この場合、緯要素はそれ自身で組織が組成されるような規則に従って挿入されないからB 群要素の減退状態とは見做せない。

        斜行縄連組(SINGEL COURSE OBLIQUE TWINING=SCOT):
        1本の撚り糸(J)を数本の並列する撚り糸(K、L、M、N、、、、)の撚り目に挿入して繋いだ後、並列する撚り糸の最終端の隣に置く(K、L、M、 N、、、、J)。次段では K で(L、M、N、、、、J)を繋ぎ、J の隣に置く(L、M、N、、、、J、K)。このようにして並列する撚り糸を次々に繋いでいけば、全ての撚り糸が貫通される要素(表面要素)と貫通して表面 要素を繋ぐ軸要素の役割を順ぐりにはたす、即ち1群要素からなる SCOT ができる。この場合 J、K、L、、、にあらかじめ撚り糸にしたものを使う方法(P-S技法)と、組成しながら対をなす2要素で撚り糸に作っていく方法(丸台、L-M、あるい は純手組み技法など)がある。上例の傾斜が一方に偏った組織に対して、紐の左右で斜行の向きが反転しているものが、2方向或は2セクションSCOTで、伝 統組紐でいわゆるささなみ組である。多数のセクションからなるSCOT もある。

        日本の古代組紐がループ操作技法で組成したものであることについて
        法隆寺献納宝物と正倉院宝物はその大部分が7−8世紀から伝来された貴重な歴史的資料である。その中に含まれる多数の組紐がループ操作技法(クテ打)で組 成されたとする研究ができたのには次のような非常に幸運な状況があげられる。
        1.組織の詳細を調べられるような状態の資料が多数あること、
        2.資料の詳細が測定されて出版されていること、
        3.資料の詳細を観察し、自分で観測できるような写真が出版されていること
        資料が多数あることから、資料の特徴が技法の組紐構成の機構に基づくものであることを統計的に裏付けることができた(注11)。
        既に調べられていた資料の詳細を基にして研究をすすめることができ、調査事実のチェックも写真資料で行うことができた。写真の観測では資料の裏側や側面が 見られないなど、実資料観測には及ばない点があるが、逆に時間を充分にかけられる、何度でも見直すことができるなどの利点がある。紐の両面を比較調査しな ければならないような構造の組紐がなかったことも幸いであった。

        従来、古代組紐の組成技法は、現在「伝統組紐」で使われているような「台組み技法」であったと考えられてきた。現存古代組紐には、殆ど撚りがかかっていな い練絹糸を用いたものが多く、細いものでは2ミリ足らず、しかも相当に長く、時には100 本を越す要素が用いられている。これらの理由から、全ての要素が垂れ下がっているような手組み技法で組成された可能性は排除されるので、従来知られていた 技法では台組み以外のものはなかったからである。しかし、古代組紐を台組み組成としたのでは説明できない、例えば紐の緊密度の低さ、組み目に見られる多少 の乱れなどの特徴、その他の方法論的な問題については殆ど論議されていなかった。

        江戸期以前の斜向縄連組紐資料は法隆寺献納宝物、正倉院宝物しかないのだが(注12)、その例に限っていえば:
        イ.紐の表面を覆う要素(表面要素)の紐の縦軸に対する角度及びそれが覆い隠している軸要素の傾斜角度が、台組み組成のもに比して狭い。
        ロ.表面要素が形成する畝織組織の畝幅にむらがある。
        ハ.畝目が緩い部分では紐幅が広く、つまっている部分では紐幅が狭くなる傾向が見られる。

        上の3特徴は、全てループ操作技法の要素の組み込み量に関する組成機構として理解できる。また逆に、理論的に根拠づけられるこの組成機構は、クテ打を使って作製した斜向縄連組紐に自然に現れる。(写真上)
        丸台組みでは組目の緊密度は糸巻きと錘の重量の平衡関係で定まり、技法として最適の状態では古資料よりもずっと堅い紐が組める。緩く組むこともできなこと はないが方法論的に無理をすることになる。紐幅は組み手が手順の繰り返し毎に軸要素を締めて整えるので緊密度との間に関連がない。組紐教則本の写真などで 見る例品に紐幅のむらは見られないのは組み手の技能が優れていたためで、実際に組んで見ればこのように組めるようになるには修練が必要であることがわか る。特に古代組紐に見られる上記特徴の第3は紐の丈方向に組み込まれる要素と幅方向に組み込まれる要素の量に関連があることを示すもので、ループ操作技法 の特徴に合致する。両者間に関連がない台組み技法には見られない現象である。
        プライスプリットも比較的最近テキスタイル技法のレパートリーに登場した技法で、多様な縄連組織が組成できるが、日本古代の縄連組紐に使われた可能性は排除去される。古代組紐には Z 撚双糸を2本づつ Z 撚りにして縄連組織を作ったものが多数あるが、 組織ユニットに撚り糸を使うP-S 技法では、このような組織形態は起こりえないからである。


        ・ループ操作組紐を記録するためのしおり
        これはたまたま、ループ操作組紐を知っている人にであったときに、記録を取るための要点のリストです。記録が取れたらセンターまでお知らせ下さい。


        イラストL-M 指操作組紐技法解説シリーズ no. 5

        一般事項解説


        経縄連組紐
        斜行縄連組紐

        L-M 組紐関係出版物:
        単行本 ・Dyer, Anne, Purse Strings Unravelled: a Serious Look at Our Loopy Ancestors, Craven Arms: Private Publication, 1997. 連絡先: Westhope College, Craven Arms, Shropshire SY7 9JN UK. 電話:01584861293. E-mail: learn@westhope.org.UK £ 20 + 送料。 イギリス17世紀のループ操作技法の記録4冊を参照して、ループ指操作技法の第1法と「掌下向き・人射し指で操作」する第3法を解釈の二つの可能 性として解読したものである。この2法に2人組みなどを1人でも組めるように、木釘にループを預ける組み方が加えられている。・Swales, Lois and Williams, Zoe K., Fingerloop Braids (The Compleat Anachronist #108), Milpitas : The Society for Creative Anachronism, Inc., 2000. 連絡先: Society for Creative Anachronism, P.O. Box 360789, Milpitas, CA 95036-0789 U.S.A., 電話 (800) 789-7486, FAX (408) 263-9305. $4.50+$1.00. http://www.sca.org  この小冊子は、ウィリアムスが12才の時に習った知識を基に(前出)、ペルーのL-M 技法をE.フランクモントの講習会で習った L. スウェイルスと協力『トルマッシュ家の秘伝』技法とほぼ同内容の15世紀文献を解読したものである。13種の手順、仮装用の中世衣装に必須の紐通し穴のか がり方、紐の端につける金具の作り方含む。更に原典がついている。マスケルレースの組み方がトルマッシュのマスケルレースの組み方と異なるが、これは原典 の書写間違いに起因するものである。

        投稿 ・N. Speiser, 'Pondering Over Tiny Tatters, Strands 2001, Isseu 8.

        URL ・http://www.lmbric.org/ : L-M BRIC News 第1号英語版。
        ・http://www.cs.vassar.ed/~cadorman/fingerloop.html, Priest-Dorman, C., Sample Fingerlooped Braids from a Fifteenth-Century Manuscript, 1997-2000.  現在の既刊ループ組紐の本には参照にする見本がないので、その補いとしてSwalesとWlliamsが復元した20の組み方のサンプルを作ったもの。

        ループ操作技法関係の活動(2001年4月より2002年3月まで)


        ・制作:園芸グループ泉北グリ−ンズ研究所の三瀬順三指導グループ制作 タイ山岳民族の「五つ編み」を使ったリース(写真上)。川辺千佳代主宰の「草木染教室」恒例春季展覧会にクテ打、トルマッシュ技法サンプル帳を展示
        ・講習会等:川辺千佳代主宰の「草木染教室」及び大谷短期女子大学特別講義 短大のクラスに高校時代に指操作技法を習ったことがあるという学生が1人い た。残念ながら高校の学園祭でちょっと習っただけで、詳細は覚えていないとのこと。関西にも(これまでの採録は関東のみ)ループ指操作技法が残っているこ とを示唆するものかもしれない。情報が広がるとともにこんな機会も増えてくると言うことではないだろうか。
        N. シュパイザー11 月 講義、講習会 ブレイド協会(イギリス)。
        木下雅子 5月講演 ボストンウィーバーズギルド、10 月、11 月 講習会、講演 シャトルクラフト札幌支部、東京桜蔭会館、泉大津市立織編館。
        ・新聞報道:井上、小村等の出土上古組紐の研究が、奈良新聞、山陽新聞その他に報道された。

        謝辞:
        情報を提供してくださった、秋田智津子、本間一恵、川辺千佳代、R.ナピア、小村真理、角浦節子、田中享子、依田章子さんたち、献金を頂いた G. Crocker、川辺千佳代、 小林リエ、R. Ward、及びWeavers Guild of Boston、シャトルクラフト札幌支部、泉大津市立織編館講習会、講演会の参加者有志の方達、また手紙を頂いた方達に感謝します。


        L-M BRIC News はループ操作組紐技法の知識と理解を広ろめるため、年1回発行、印刷版を無料で配付しています。御希望の方は編集者までお知らせください。但し御理解者の献金は歓迎します。
        協力献金¥送付先:振替口座番号 00360 3 2586 名義人木下雅子 $送付先:5 Winthrop Place, Ithaca, NY 14850 U. S. A.

        編集後記:本号から印刷版が6ページになった。理由は外でもない、国際航空便の最低料金が60セントから80セントに上がったかわりに最低制限重量が 0.5オンス (14g)から1オンス(28g)になったからに過ぎない。