L-M BRIC NEWS
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特集『縄連組紐の組成法としてのループ操作技法」
縄連組織組紐(Single Course Twining)とは、何本かの並列する撚り紐(TWINE)の撚り目に糸を通して連ねた組織を持つ組紐である(注1)。 並列する撚り紐とそれを連ねる要素が経糸緯糸のような関係にあるものと、全ての要素が両者の役割を果たす斜向組織のものとがある。その存在は古くは中国や ペルーの砂漠地帯からの考古出土資料、7世紀の法隆寺献納宝物、8世紀の正倉院宝物中組紐、15世紀イギリスの記録などにみられ、現代も世界の各地で種々 の技法を使って組成されている。後者には組織の斜向の向きが紐の左右で反転する2方向又は2セクション斜向縄連組織(2d 又は2s SCOT)が多く見られる(注2)。 経緯組織組紐のループ操作による組成法は、現行の技法が民俗誌ジャーナルなどに報告されており、外に見聞の記録が相当数ある(注3)。カード織、伝統組紐の綾竹台などでも組成される。 斜行組織組紐のループ操作組成技法としては、M. フレイムが古代ペルーの組紐の組成法として、木下雅子が日本の古代組紐の組成法として、それぞれ同じころに独自に提案した手操作法がある(注4)。その後イギリス15世紀のループ指操作組紐技法の記録「トルマッシュ家の秘伝・紐の作り方」に、丸紐を含む多数の組み方が見いだされ、フレイム、木下の提案技法の原理の実在性が根拠づけられた(注5)。 アンデス地方で現在も作られていることが製品に見られるが、組成法の報告はない。 L-M 以外の現在使われている技法としてはプライスプリット(PLY-SPLIT = P-S)、丸台、純粋手組みなどがある(注6)。 パキスタン北部に住むフンザ族の経縄連組織縁飾り
レイ・ナピアさん(イギリス)の報告
フンザ族はループ操作法を使って作る経縄連の細幅紐を帽子などの縁飾りにしている(写真上)。杉綾が4列並ぶ4目のメリヤス編の様に見える平紐を組みながら綴じ付ける。 ループ技法で組成する場合は組織ユニットの撚り紐は双糸であり、両手の4本の指(ループ8本)を使って組成する杉綾4列のものが多いがフンザ族では時には 杉綾5列のものも作るという。4列以下の場合もあり得る。現行の技法として報告されているのは、全て原理的には同じものである。ノボシビルスクの民族学研 究所で見たシベリア西北部に住むハンティ族の毛織り上着には、上下2面で組織が異なる典型的な不正規組織組紐と経縄連紐が使われていたが、後者もおそらくループ操作で作られたものであろう。 帽子、衣服、手提げ袋その他の縁取り、縫い筋を被って綴じ付けるなどに用いる。 縁飾りの経縄連紐には、カード織技法が使われる場合もある。カード技法の場合は組織ユニットになる撚り糸は4本撚りが多く、撚り糸の本数は使用カードの枚数によって決まる。表面の組織パタンも杉綾とは限らない。 古墳出土の2方向斜向縄連組織組紐組紐の組成法についての研究
元興寺文化財研究所付属保存科学センターの井上美知子・木沢直子・小村真理・植田直見等は、WOAM 国際会議 において、「鳥取県長瀬高浜遺跡出土2方向斜行繩連組織組紐及び熊本県天水町経塚古墳出土4畝平組紐について=Braids on Excavated Iron Swords」をポスター発表し、多くの関心が寄せられた(注7)。 この研究は、銹化した考古資料、鳥取県長瀬高浜遺跡出土の剣の鞘に巻かれていた組紐、および熊本県天水町経塚古墳出土挂甲の威毛について、ループ操作技法で組成された可能性が高いことを指摘したものである(注8)。 銹化資料に残る組目と法隆寺献納宝物、正倉院宝物中の古代2方向斜行繩連組織組紐の組み目の傾斜角度、4畝平組紐の組織の特徴などの類似性から、これら上 代組紐が古代組紐と同じ技法で組成された可能性を論じている。これが確認できれば、もとの組紐の出自がどこであったかは判らないとしても、SCOT組紐の ループ操作による組成技法の存在上限が、7世紀から5世紀に遡ることになる。
写真上 2方向状連組紐の軸の傾斜角度比較 タイ国少数民族ヤオ族のL-M技法 依田章子さんの報告
タイ国の山地少数民族カレン族とアカ族が「掌上向き・薬指(内側指)で操作」する ループ指操作技法第2法を用いていることは既に報告されていたが、更にヤオ族も同じ方法を用いていることが依田章子さんの報告でわかった(注9)。
ループ数5で、角組、組蛇腹組2本同時と4畝綾織組織平組紐を組む。素材は赤、黒、白などの艶出し木綿糸。ループ端で2色の糸を結んで繋いだ2色ループを使って縦縞柄角組を組むこともある。不正規組織組紐(UO)は組んでいない。 「インドの金糸組紐工房の組師」が使っていた指操作法は第2法!
ニュース第1号掲載の図4インドの金糸組紐工房について、この絵の描写に間違いがなければインドの組師が使っている技法は「掌上向き、内側指で操作する組み方」(第2法)であろうと1998年発刊当時に推定したが、Fingerloop
Braids (「L-M 組紐関係出版物」欄参照)の著者の一人 Z. K. ウィリアムス が12才の時にインド人から習ったL-M
技法はまさにその組み方であった。これまで第2法の報告は中国、タイ、日本などアジアの東寄りの地域が大多数であったが、更にアジア中央南部のインドが加わったことになる。ミステリー 桧扇の扇面に描かれた絵は?
京都市勧業館内京都伝統産業ふれあい館ギャラリーで昨秋開催された「室町・桃山時代の衣裳展」には、昭和初頭に開催された「染織祭」のために、京都の染織 技術の粋を結集して確かな時代考証のもとに復元された職人衣裳が並んだ。その1点づつの足下に置かれていた桧扇の一つに足打台が描かれていたと、角浦節子 さん(京都)と田中享子さん(札幌)からの報告。(写真上)その後の角浦さんの調査で、主催者京都伝統産業交流センターの学芸員北川さんによれば、桧扇は 出展の衣裳が作られたときにアクセサリーとして作ったもので、衣裳については完全な記録があるが扇の記録は残念ながら皆無であることがわかった。 打箆の支柱にある切り込みは、組しゅん備考の「手組糸打臺寸法」の図にもあるが、これまでその目的がわからなかったものである。扇面の図によれば、切り込 は作業を中止する時に糸順が乱れぬように叉になった棒で糸束を挟み、その棒をかけておくための棚として使われている。このような詳細が典拠なしに描かれた とは考えられない。衣裳の時代にふさわしいアクセサリーとして作られた桧扇の絵の典拠はおそらく衣裳と同時代の資料にあるのではないだろうか。この絵の原 典を知っている人はいませんか。 縄連組紐解説
織物では、経糸と緯糸の交叉点でいずれを上にするかを定めることで組織が決まるように、トワイニング組織の場合は、各交叉点で、対向して交錯する撚り糸または撚り紐(注10)のいずれを相手の撚り目に貫通させるかを定めることで組織が決まる。1本の要素が対向要素数本を一方的に続けて貫通しているものが縄連組織(SINGLE COURSE TWINING )である。 要素が2群に別れる縄連組紐: 日本の伝統組紐の中の綾竹組は、紐の丈方向に通る撚り糸が横つなぎ要素で連結されてて、一見カード織の帯と同構造に見えるために、「組」であるか「織」で あるかの論議の的になることがある。伝統組紐には、1群の並列する双糸がもう1群の並列する双糸、時には4要素とか8要素の組紐でつながれている立体j縄 連組紐がある。多くはその名前に「源氏」がついているこれらの組紐では、対向要素を経要素とそれを繋ぐ緯要素とに分けるよりも、要素の内の1群(A群)は 奥行き方向に、他の1群(B 群)は幅方向に移行して互いに交錯しながら立体構造を形成すると見る。このような構造の中で、B 群の要素数が最低基本数に減退したものが綾竹台で組む経縄連組織平組紐であると見れば、綾竹組が「組」に属することは明らかである。撚り紐を横つなぎにし たカード織の帯もB 群要素が1本か2本に減退した状態と見做せないかといえば、この場合、緯要素はそれ自身で組織が組成されるような規則に従って挿入されないからB 群要素の減退状態とは見做せない。 斜行縄連組(SINGEL COURSE OBLIQUE TWINING=SCOT): 1本の撚り糸(J)を数本の並列する撚り糸(K、L、M、N、、、、)の撚り目に挿入して繋いだ後、並列する撚り糸の最終端の隣に置く(K、L、M、 N、、、、J)。次段では K で(L、M、N、、、、J)を繋ぎ、J の隣に置く(L、M、N、、、、J、K)。このようにして並列する撚り糸を次々に繋いでいけば、全ての撚り糸が貫通される要素(表面要素)と貫通して表面 要素を繋ぐ軸要素の役割を順ぐりにはたす、即ち1群要素からなる SCOT ができる。この場合 J、K、L、、、にあらかじめ撚り糸にしたものを使う方法(P-S技法)と、組成しながら対をなす2要素で撚り糸に作っていく方法(丸台、L-M、あるい は純手組み技法など)がある。上例の傾斜が一方に偏った組織に対して、紐の左右で斜行の向きが反転しているものが、2方向或は2セクションSCOTで、伝 統組紐でいわゆるささなみ組である。多数のセクションからなるSCOT もある。 日本の古代組紐がループ操作技法で組成したものであることについて 法隆寺献納宝物と正倉院宝物はその大部分が7−8世紀から伝来された貴重な歴史的資料である。その中に含まれる多数の組紐がループ操作技法(クテ打)で組 成されたとする研究ができたのには次のような非常に幸運な状況があげられる。 1.組織の詳細を調べられるような状態の資料が多数あること、 2.資料の詳細が測定されて出版されていること、 3.資料の詳細を観察し、自分で観測できるような写真が出版されていること 資料が多数あることから、資料の特徴が技法の組紐構成の機構に基づくものであることを統計的に裏付けることができた(注11)。 既に調べられていた資料の詳細を基にして研究をすすめることができ、調査事実のチェックも写真資料で行うことができた。写真の観測では資料の裏側や側面が 見られないなど、実資料観測には及ばない点があるが、逆に時間を充分にかけられる、何度でも見直すことができるなどの利点がある。紐の両面を比較調査しな ければならないような構造の組紐がなかったことも幸いであった。 従来、古代組紐の組成技法は、現在「伝統組紐」で使われているような「台組み技法」であったと考えられてきた。現存古代組紐には、殆ど撚りがかかっていな い練絹糸を用いたものが多く、細いものでは2ミリ足らず、しかも相当に長く、時には100 本を越す要素が用いられている。これらの理由から、全ての要素が垂れ下がっているような手組み技法で組成された可能性は排除されるので、従来知られていた 技法では台組み以外のものはなかったからである。しかし、古代組紐を台組み組成としたのでは説明できない、例えば紐の緊密度の低さ、組み目に見られる多少 の乱れなどの特徴、その他の方法論的な問題については殆ど論議されていなかった。 江戸期以前の斜向縄連組紐資料は法隆寺献納宝物、正倉院宝物しかないのだが(注12)、その例に限っていえば: イ.紐の表面を覆う要素(表面要素)の紐の縦軸に対する角度及びそれが覆い隠している軸要素の傾斜角度が、台組み組成のもに比して狭い。 ロ.表面要素が形成する畝織組織の畝幅にむらがある。 ハ.畝目が緩い部分では紐幅が広く、つまっている部分では紐幅が狭くなる傾向が見られる。
上の3特徴は、全てループ操作技法の要素の組み込み量に関する組成機構として理解できる。また逆に、理論的に根拠づけられるこの組成機構は、クテ打を使って作製した斜向縄連組紐に自然に現れる。(写真上) ・制作:園芸グループ泉北グリ−ンズ研究所の三瀬順三指導グループ制作 タイ山岳民族の「五つ編み」を使ったリース(写真上)。川辺千佳代主宰の「草木染教室」恒例春季展覧会にクテ打、トルマッシュ技法サンプル帳を展示 |