L-M BRIC News No. 3 日本語版 2000-06-10 ©改訂2003
        米国ニューヨーク州イサカ市ウィンスロッププレイス5番地
        ループ操作組紐研究情報センター
        創立者・編集者 木下雅子(Masako Kinoshita)
        電話・Fax (607) 257-0886: E-mail mkinoshi@twcny.rr.com
        英語版第3号  参考文献  L-M技法世界分布地図

         
         

        L-M BRIC NEWS

         

        イギリス、ロンドンのゴミ捨て場跡から12世紀の「指ループ」組紐が出土

        1970 年代から 1980 代にかけて行われたテムス河畔の、使用期が西暦 1150-1450 年の間と考証されているごみ捨て場跡の考古発掘で、中世期都市生活環境における日常用具の出土品を見たが、中でも土壌環境から通常みることのまれな繊維製品が多く出土したことが注目された(注1)。そのなかに、紐端に組糸がループのままで残っていることから「指ループ」組紐とされた、紐24本が報告されている。ループ数 5 と 7 の外に10、14、20 があり、2 人組みや 4 人組みもあったことが伺われる。ヘヤーネットの結び紐、手提げの紐などの使用例が見られる。
        一般に、数多の繊維製品の中で「紐」で片づけられることが多い組紐が、この報告で組成技法を含む記載がなされたことは喜ばしく、これでイギリスでの l-m 組紐技術の存在が12世紀まで遡ることが確認されたことになる。
        出土組紐資料の分類は、ループ端が残っている資料を「指ループ」紐とし、それ以外の約20点の組紐は「プレ イティング」としたもののように思われる。前者の分類に対しては異論はないが、例えば、出土品中に紐の一端が2筋の組紐に分岐しているものに対して、1筋 の部分は「指ループ」紐、分岐部分は「プレイティング」と分類されている。しかし1本の紐を途中で2本の平紐に分けて(同時に)組む(あるいはその逆)手 法はループ操作技法の定石である。また「プレイティング」とされている8要素角組紐もループ操作組紐である可能性が、正倉院宝物の角組の例にてらして考え られる(注2)。さらに、学術用語として確立されているとはいえず、かつ一般に用いられている語としては相互排除的とは言えない「指ループ」と「プレイティング」が規定なしに分類のカテゴリーとして用いられていることは疑問である。
         
         

        中国雲南のループ操作技法は「掌上向き、内側指で操作」!

        中国雲南省李家山青銅器博物館蔵の東漢時代のものとされる貯貝器にループ指操作技法を使っている塑像があると聞いたことが、L-M BRIC News 発刊のきっかけであった(注3)。それだけに実物をぜひ見たいと願っていた矢先に、ワシントンの繊維博物館の中国貴州省、雲南省の小数民族テキスタイル探訪のツアーが企画されその機会が意外に早く訪れた。
        李家山青銅器博物館は雲南省の首府昆明から南約 100 km の地、江川にある。昆明からのスーパーハイウェイ建設中で、完成の暁には簡単に行ける距離であるが、今回は建設中の道路をがたごとと走る丸1日の旅であった。
        館内の照明の届かない片隅に目的の貯貝器は陳列されていた。組紐をしている2人をみると、捧げる様にしてかまえている組み手の両手の明らかに人さし指と中指とわかる2本の指に青銅製のループがかかっている (写真1b)。 ループ指操作法ではループ数5の場合が多く、なぜ4本しかないのか、4本で組めないわけではないがその例は少ない。塑像製作者の見落しか、故意の簡略化 か、知る由もないが、この2人がループ操作技法を使っており、しかもそれが日本とタイ国少数民族で現在使われている、小指で操作する方法(第2法)である ことはほぼ間違いない。塑像の大きさに比して誇張されて大きいその指、そしてループの糸、周りで腰機を使っている織り手とは異なる衣服、髪形などは技法以 上のものを伝えている様に思われる。博物館の蔵品のごく一部しか展示していないその中にこの貯貝器があったことはなんという幸運かと改めて思った。貯貝器 を明るい場所に移して近影を撮ることを許可して頂いた博物館長の石明栄博士に感謝する。
         


        タイ国少数民族ポー・カレン族とアカ族のループ操作組紐

        写真2は、銀製品を特技とするポー・カレン族の村でジュエリーにする組紐を組む情景である。打ち手を兼ねる右側の一人が銀のお守りや飾りを組目の間に挿入している。手を休めてそれを見ている組み手の左右の人さし指、中指と右手の薬指にループが掛かっている。写真3で は、アカ族女の子が ループの掛け方を見せている。ここでもループは左右の人さし指、中指と右手の薬指に掛かっている。組頭をひざの間に挟んでループを張っているが、外にこの 子が同じ配置でループを持ち、もう一人の女の子が右手で組頭を持って引っ張りながら左手で組み口を叩いているの写真があり、それが普通に行われている組み 方であろう。ループを移動している場面の写真がないために、実際にループを移動するときにどの指を使うのか、そしてその時の掌の向きは決定的にはわからな いが、小指あるいは薬指(掌上向きまたは向かい合わせ、内側の指)で操作する方法を使っていると想定できる。組み手の掌は向かい合わせになっているが、こ れ以外の写真でも同様場面が多く、やや上向き、あるいはやや下向きの場面が少数あり、作業中の掌の向きは固定的なものではないことがわかる。いずれも1人 がループを指にかけて操作し1人が組織を締める役であるから、2人で組んでいることになるが、2人組みとはループを指にかけて操作する人が 2人いることを意味するので、これらの写真は1人組みのケースである。これ等の技法は既報のカレン族で用いられている方法と一致する(注4)。

        貯貝器の塑像でも、Napier さんの写真でも、ループが共に人さし指と中指にかかっていることから、ループ指操作の「掌向かい合わせ、内側の指(小指か薬指)で操作」する方法(第2 法)と想定した。このループ配置は、第2法の初期配置、即ちループ移動を始める直前の配置である。ところがこのループ配置は、「掌向かい合わせ、外側の指 (人さし指)で操作する」方法(第1法)でループを移動した直後の状態と同じである。従って厳密には、このループ配置のみからではいずれの方法を使ってい るかの決定はできないのである。しかし技法を実行してみれば、ループ移動の後でそのままの状態でいることは決してなく、移動後ただちにループ「差し替え」 が行われることが解る。従ってこれらの写真に見られるような「待ち」の間にはループは初期配置状態になっているものとして間違えることは少なく、第2法で あると想定できるのである。
         


        特別寄稿

        "OLD ENGLISH PATTERN BOOKS FOR LOOP BRAIDING" について(注5)

        ノエミ・シュパイザー

        本書はイギリスの上流婦人たちが遺した組紐技法の記録2種を典拠とする。
        1.17世紀の紐見本つきの手稿;内容がほぼ重複する 9 冊の手稿の要点はすでに前著 "The Manual of Braiding " に公表した(注6)。本書では残っていた問題点について解釈を与え、記録者達の言外の意向、奇妙な構造上の不規則性の理由を推量してみた。 
        2.15世紀中葉の「トルマッシュ家の秘伝 (The Tollemache Book of Secrets)」中の「紐の作り方 (The Treatise on the Making of Laces」:この中世の手稿を現代文字に書き直した写本で読んで見ると、65のループ組紐の手順が非常に筋道が通った明確さで記録されている。更に調べ ていくと驚くべき内容を持っていることがわかった。これらについて詳細な分析を行い、私の提言、推論などを加えた。
        イギリスのループ操作技法の伝統の深海を探るともいうべき本書から、豊かな収穫を得ていただきたい。
        組み方は 手と指を描いた図解で解りやすく説明した。経路図は緊密構造組紐の内部に隠されている秘密を解き明かす道具である。
        第1部では他の組紐技法にはあまり見られないループ組紐技法の面白い特性を、これに似通った構造組成する技 法に関連させながら概観する。これによって糸を交錯させて組成する他の技法にこの技法を対応させながら、それぞれの特徴を明らかにし、いずれが現実的に妥 当な技法であるかを検討する。
        頭や手が疲れたときには、色彩豊かな組紐名、面白い述語の数々や、指の形容に使われている奇妙な語彙などを楽しむこともできる。
        幸いに紐見本つきの原典から13ページ、トルマッシュ夫人の手書きの原典の2ページのコピーをいれることができた。
        グローバー夫人、ミルワード夫人、贅沢で顰蹙を買っていたビンドロス夫人等 17 世紀の貴婦人達の気まぐれ心の中を探り、200 年前のトルマッシュ夫人の一貫する筋道と並べて考えてみたのは、私にとって実り多い体験であった。読者の皆さんにも、同じ経験を味わって頂けたらと願っている。(N. S. 寄稿終わり)

        ‡(編集者蛇足)The Tollemache Book of Secrets は、従来からイギリス中世期研究の文献として著名であったが、その中の 'The Treatise on the Making of Laces' がループ操作技法の記録であったことは、Speiser の研究で初めて明らかになったものである。この「秘伝」には17世紀の技法からも、従来の採録技法中にもなかった手順が含まれていて、ループ指操作技法のレパートリーが大きく広がったことが注目される。

        ループ操作組紐を記録するための主要視点リスト
        シュパイザーさんの新著中のリストからの摘要で、印刷版では本号に初出したもので す。
        たまたま、ループ操作組紐を知っている人にであったときに、記録を取るための要点のリストです。記録が取れたらセンターまでお知らせ下さい。
         

        ループ指操作法の二つの展開方向
        現在知られるL−M指操作技法は、民間に残る現行技法の報告と、イギリスの15世紀と17世紀の記録を基に復元された技法に基く(注7)。
        これらの方法から、指にかけた糸の輪の単純なを交換からなる技法(L−M指操作技法)の展開する方向を見ることができる。

        発展方向1を代表する、角組(ニュース第2号 図3)(4畝筒状綾織組織組紐)、2本の2畝綾織組織平組紐同時、4畝綾織組織平組紐(今号に解説)の組み方では、操作指と移動ループが掛かっている指との間にある全てのループを「通す」綾をとる。2層組成機構によって正規組織組紐が組成される。

        発展方向2の組み方は、指操作法のみに見られるもので、操作指と移動ループが掛かっている指との間にあるループを「通す」、「逆通し」、「越す」のいずれかをまぜて綾をとる(この順である必要はない)もので、不正規組織組紐が組成される(第2号、図2、4、5、6及び本号)。
         

        イラストL-M 指操作 組紐技法入門シリーズ; 一般事項解説 no. 3

        正規組織組紐
        ・2畝平組紐2本同時(蛇腹組2本同時) 
        ・4畝平組紐
        不正規組織組紐 
        ・UO No. 1
        ・UO No. 2
         

        ‡シュパイザーさんの新著購入に関するお問い合わせはセンターまで。mkinoshi@twcny.rr.com
         

        謝辞:
        文献、その他の情報を送って頂いた J. Fielder, S. Lou, J. Parry, R. Owen さん等;本号に寄稿頂いたN. Speiseerさん;協力献金を頂いた鈴木美登里, U. Bargmann, S. Berlin, R. Wardさん等;ほかお手紙を頂いた皆さんに感謝します。

        L-M BRIC News はループ操作組紐技法の知識と理解を広ろめるため、年1回発行、印刷版を無料で配付しています。御希望の方は編集者までお知らせください。但し御理解者の献金は歓迎します。
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