L-M BRIC NEWS
中米パナマ・クナ族のスピリットブリッジ
年頭に、ベルギーのフリーダ・ソーバーさんから、1998年度のループ操作組紐技法( L-M 技法)文献探索の結果として、パナマ東部とそのカリブ海沖合にあるサン・ブラス島の原住民でモラ(逆アプリケ)で知られるクナ族(Cuna Indian)が、埋葬儀礼に使う組紐について報告があった(注1,2)。「来世へのスピリットブリッジ」と呼ばれるこれらの紐をそれ以外の目的に使うことはタブーとされている(写真1)。「掌向かい合わせ、指で操作する」 L-M 技法を使い、組み手と打ち手の2人で組むことが判る( 写真2)。残念ながら手順の記録はないが、写真1の右側の2本はループ数5の角組で、「スピリットの梯子」に巻き付けてある左側の1本はループ数7、紐の2面で組織が異なる不正規組織組紐(以下では省略してUO)と見られる。左側の紐の組成手順は2通り推定できるが、紐は1面の組織しか見えないので、確定はできない。(イラストL-M 組紐技法入門シリーズ=入門 No. 2, Fig. 2a, 2b)(注3)。左右の紐のループ数が5または7より多いのは、組糸を二重にして使っているためである。南米コロンビ・アクナ族の埋葬儀礼用組紐
類似の埋葬儀礼とタブーがコロンビアの北西部に住むクナ族にもあることが 1972 年に報告されている。(注4) 報告の図解によれば「掌向かい合わせ、人差し指で操作する」 L-M 技法(第1法)で組む2種類(TYPE I, TYPE II)の組紐が用いられている(注5)。TYPE I は角組だが、操作指に遠い側のループの足を拾う「逆取り」綾になっている(入門 No. 2, Fig. 3a)。これまでに報告されている第1法を使う角組の手順は、操作指に近い側のループの足を拾う、即ち「通す」綾の(入門 No. 2, Fig. 3b)もののみであるという意味で珍しい例である。TYPE II は、パナマのクナ族の紐とは全く異なるものであることが興味を引く(入門 No. 2, Fig. 4)(注6)。シベリア・ハンティ族のコートの紐
1998 年度新資料として「L-M 技法分布地図」に加えるもう一つの収穫は、ノボシビルスク(ロシア)の考古学民族学研究所の民族衣装コレクション中に見つかった。シベリアの北西部、オビ河流域に住むハンティ族の衣装についていた組紐である。
上着の前あきについている5箇所のうちの2箇所の結び紐が2畝と4畝の平紐を組合せた紐である(写真3)。L-M で組んだ UO 組紐に違いない。既報の民俗資料 UO 中の最多数例組紐(仮に UO No. 1 と呼ぶ)も2畝と4畝平紐の組合せであるが、4畝の側が平らで2畝の側が膨らんでいる「半月形」である(写真4)。ハンティ族の紐は逆に2畝側が平らで、4畝側が膨らんだ半月形であるる。構造の詳細を調べられなかったが、2畝(蛇腹組)と4畝(重打)が外畝で繋がる筒状組紐ではないかと思われる。この構造の組むとすれば第1法ならばFig. 6a、第2法ならばFig. 6bの手順(入門 No. 2, Fig. 6a, 6b)で組める(注7)。これまでの採録記録には「掌上向き・小指か薬指で操作する」L-M 技法(第2法)で UO を組む手順がない。試しにUO No. 1 を第2法(入門 No. 2, Fig. 5b)で組んでみたところ断面が凹形の紐になり、第1法或は第3法組成の「半月形」とは似ても似つかぬ紐になった。素材や組織緊迫の仕方を変えても形が変わらないが、作業の終わりに近く非常に短くなったループ組んだの部分が半月形になり、間違いなく同じ紐が組めていることがわかる。この相異を L-M 操作法の内の少なくとも第2法と他の2法(第1法、第3法)の使用判別に使えないかと考えてみたが、組紐は保存の状況、素材、組み手の癖、その他種々の条件で変形することもあり、今はむしろ組紐を外観で判定することへの警鐘と見た方がよいようである。
ループ指操作技法:世界の広域にわたる L-M 技法の民俗資料では、ループを指にかけて操作する「指操作(F-H)」が、ループを手にかける「手操作(H-H)」を凌駕して多数派である。ループ操作技法では、指操作、手操作のいずれでも、ループの2本の足(要素)が対をなしてではなく、個々に別の組織目に組み込まれるので、例えば5本のループを使えば要素数 10 の組織の組紐が組める。
また操作においても、使うループの数は組成される組織に要する組糸(要素)数の半数ですむ。これらが、道具の助けを借りない組紐技法として、常識では考えられない複雑な組織が組める要因の一つである。L-M 技法の軌跡を残す組紐:不正規組織組紐=Braids with an Unorthodox pattern(UO)
UO は、指操作L-M 技法以外の技法では滅多に作られない構造を持つので、この技法が使われていることが殆ど確実であることを示す「目印の組紐」である。
UO には、組み方の特徴として Figs. 2、5、6 に見られるように、「通す」と「飛ぶ」で指定される綾がある。その結果、ループの2要素が対で組織に組み込まれる場合が生じ、UO が組成される。民俗資料に多く見られる UONo. 1 組紐はその典型で、F-H ならば簡単で非常に早く組めるが、台組みなどの自由端組紐技法で組むとすると面倒である。つまり普通の組紐技法の自然な発展経路からは発想されない構造で、台組み技法で上級のレパトリーに入っているという種類のものではない。つまり UO は大多数の組紐からはみ出した組織を持っているので、この組紐が見つかれば殆ど確実にその社会で F-H L-M 技法が使われていたといえるわけである。但し UO は F-H L-M 技法としては自然な発想であって、この技法として「不正規」という意味ではないことを強調しておく。
指操作法を使っていて、UO の採録報告がないのはこれまででは日本とタイのみである。
イラストL-M 組紐技法入門シリーズ 内容
イラストページ基本用語等一般事項解説
シリーズ No. 2
パナマクナ族の埋葬儀礼ループ数7の組紐推定組成法1
同上 推定組成法2
コロンビアのクナ族埋葬儀礼の角組 TYPE I
第1法角組の多数派手順
コロンビアのクナ族埋葬儀礼組紐 TYPE II
UO No. 1 第1法による組み方。
UO No. 1 第2法による組み方。
ハンティ族の組紐、木下雅子推定第1法組み方
同上、木下雅子推定第2法による組み方
ループ操作組紐を記録するための主要視点リスト
たまたま、ループ操作組紐を知っている人にであったときに、記録を取るための要点のリストです。記録が取れたらセンターまでお知らせ下さい。謝辞:たゆみなく文献を探索し続けてくださるソーバーさん、飽きず相談に応じてくださるシュパイザーさん、協力献金を頂いたシャーリー・バーリン、メアリー・デューセンベリー、川口文子さん達、L-M ライブラリーに著書を御寄付頂いた アン・ダイヤーさん、激励のお手紙を頂いた皆さんに感謝します。
編集後記:比較的に単純なトピックと思って始めた本号であったが、時には混乱を起こしかねない盛り沢山の内容になった、新資料発見の現場として、系統的解説とは異なる面白さを読み取って頂きたい。
L-M BRIC News はループ操作組紐技法の知識と理解を広ろめるため、年1回発行、印刷版を無料で配付しています。御希望の方は編集者までお知らせください。但し御理解者の献金は歓迎します。
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